toggle
2022-08-11

【プロダクションノート】描きたくて仕方がない

「奈良都民のおえかき」をご購入いただいたことがきっかけで、山梨県立文学館の特設展「文芸雑誌からZINE(ジン)へ」-古今同ZINE誌-に、数ある面白いZINEと共に展示していただくことになりました。

この展示、とても面白く興味深い内容。近年増えているZINE(各々が好きなテーマを自由な手法で冊子にまとめ、特に出版社などを介さず自由に発表するもの)のコーナーと、芥川龍之介や太宰治が少年時代に仲間と共に作った同人雑誌のコーナーの二部構成となっています。

この同人雑誌がまさに珠玉!若き日の彼らの「書きたいんだーー!!」という情熱が文字から文面から満ち満ちた誌面を堪能できます。芥川龍之介が小学校時代に作った回覧雑誌は本人の直筆。話の内容が既に一つの物語として作り上げている点は驚きなのですが(そこは流石に突出した才能なのかな)それ以上に私がグッときたのは誌面デザインと言いますか、全て書き文字ですが、文字の大きさや整え方に「みんなに読ませるんだ!」という熱意をひしひしと感じました。

さらに心を掴まれたのが太宰治の中学時代の同人誌「蜃気楼」。級友や弟と共に発行したものです。活字による紙面や完成された表紙デザインなど、そのハイクオリティっぷりとそこまで仕上げていくパワーにまずは驚くのですが、この冊子、ひいてはこの展示のハイライトは彼らが綴る「書くことへの心意気」だったと思います。

原稿を書けというと「下手だから」と言う人がいる。
そんなことを言われたら「下手なら尚更書かなきゃだめだ」と言いたい。

文章が上手で褒められるために書いている訳じゃない

各々の文にはそれぞれ癖がある。その癖こそが尊い。

展示内容をそのままここに載せるわけにいかないので大意を書いてますが、私の胸をついた言葉です。

ZINEを作っても「誰かが読んでくれる内容だろうか」「まだまだ人前に出すレベルではないのではないだろうか」と迷ったり気が引けたりする人は結構いると思います。その気持ちはとてもよくわかります。勢いで完成させたとしてもいざ発表するとなると「もうひと超えの勇気」が案外いるんですよね。

でもね。

褒められたくて作ってるのではないのですよ。もっというと明確な目的があって作っているのではないのです。描きたくて描きたくて仕方がないから、描かずにはいられないから描くんです。誰の制約も受けずに自由に表現したいからその結果癖だらけなんです。それでいいし、それこそがZINEなんですよ。で、そこに引っ掛かってくれる人は案外ポツポツと現れるし、ZINEを出し続けていくとちょっとずつ増えていくように思います、不思議なことに。私の場合はそうです。まぁ、「なにこれわかんない!」と突っかかってくる人もたまにいますがw、そりゃ単にご縁がないだけです。結局、人を表現へと突き動かすのは技術ではなく「描きたくて仕方がない」という衝動だし、本来そこは誰かに制限をかけられるものではないのだと思います。(あからさまに他者を痛めつける内容はNGですけど、そこは表現云々とは別に人道の問題です。)

まさか自分の作品が施設の展示目録に載る日が来るとは思いませんでしたが、私のちっちゃいZINEも「蜃気楼」と似た心持ちで作っていることですし、たまにはこんなこともあっていいのかなーと思います。

こちら、会場である山梨県立文学館。広ーーーい緑地が大変気持ちの良い、素敵な施設です。併設の(と言うにはあまりに立派な)美術館もあります。丸一日使って堪能できておすすめです。


関連記事
PAGE TOP