好きな本を選んで勝手に装丁する「空想装丁図書館」。
自由課題ということで18世紀のフランスで発表された「危険な関係」を選びました。
当時の貴族社会のいわば恋愛ゲームを書簡形式で綴った小説です。
話の大筋としては、当時のフランス社交会に生きる二人の人物
復讐目的やゲーム感覚で 貴族の女性たちをいわば「堕としていく」貴族ヴァルモン、
それをけしかける嘗ての恋人である若い未亡人メルトゥイユと
彼らに絡む人々の手紙を通じた心理劇、といったところでしょうか。
この小説を原作として1997年に宝塚歌劇団雪組が
「仮面のロマネスク」というミュージカルを上演しておりまして
観劇当時高校生だった私は舞台上で繰り広げられる緊迫感に満ちた心理劇を、
分からないながらも食い入るようにみておりました。
上演中のまさにピン、と糸を張ったような緊張感と
終演後の劇場中が大きくため息をついているかのような空気を今でも強烈に覚えています。
実はこのミュージカル、原作の小説とはラストを変えています。
原作を深く読み込みつつも敢えて変えた脚本家 故・柴田侑宏氏の真意が長らく気になっていました。
ラストと同じく気になったのが、主人公の一人 ヴァルモンの心理でした。
誘惑し堕とそうとする女性に対してあくまで冷徹だったヴァルモンが、彼女に本気で心惹かれる瞬間があるんです。
………なぜ揺らいだのか。相手の女性が持つ魅力は当然あるでしょう。
ただ、人と人との関係って、片方だけに理由があるということがあるでしょうか。
惹かれた側にも欠落なり渇望なり、何かしらのきっかけが燻っているのでは………???
彼の心理がラストに大きく影響することもあり、ずっと疑問を抱いておりました。
というわけで良い機会と思い、制作してみた次第です。
実際作ってみて疑問が解消したかというと………、正直、もうちょっと読み込みたいところ。
しかし200年近く前の海外の話なのに、今に生きる私たちに通ずるところがとても多い作品であることは確かだと思います。
手紙という手段に表現を絞ることで、言葉の中に詰まった真意があからさまになっている点がとてもスリリング。
本心を伝えているつもりが取り繕っていたり、伝えても甲斐のない相手に本音をぶつけていたり。
相手の気持ちはまるで無視で自分の言い分を通すことしか頭にない姿が露呈したり。
自由を謳っているつもりが実は社会や時代に囚われて雁字搦めになっていたり。
げに恐ろしきは言葉。身に覚えのある話に溢れています。
……とまぁできる限り熟読して感じた思いを装丁で形にしました。
カバーの無くなった古い文庫本をハードカバーに仕立て直しています。
翻訳ものは持ってまわった言い回しが多く、ちょっと取っ付きづらいのですが
読み進めるとかなり引き込まれる小説だと思います。
ご興味ある方はぜひ会場でお手に取ってみてください。
今年の「空想装丁図書館」開催情報は下記フェイスブックページをご参照ください。
新型コロナウィルスの感染状況が芳しくないため積極的なご来場をお勧めできませんが
お見知り置きいただけますと嬉しいです。