仕事で書籍の装丁デザインをした経験はありません。
文字だけで描かれる世界を表紙や本文の紙にぎゅっと詰め込む制作には非常に憧れます。
グループ展でよくご一緒している奈良の作家さんからお声がけいただき、昨年より装丁の展示に参加しております。
「空想装丁図書館」と題した、好きな本を選んで自由に装丁しちゃおう!という展示です。
お題は自由課題として自分の好きな本より一冊。
そして共通課題として「三人の作家」より一人を選んで装丁すること。
2020年の「三人の作家」は宮沢賢治・太宰治・江戸川乱歩。
私は太宰治の「女生徒」を選びました。
「女生徒」は太宰治のもとに送られた当時十九歳の有明淑という女性読者の日記を元に
一人の女生徒の一日を彼女の独白の形で綴ったものです。
暮らしに困窮こそしていないものの、父親を亡くした少女の母親への複雑な思いや
日常の中で自身が抱えるジレンマが胸の内から吐き出されるように書かれています。
学校にいても家にいても、自分に・誰かに腹を立てたりそんな自分に落ち込んだり、
まだ幼く無力な自分にもどかしさを感じたり。
この女生徒の心の中は大忙し。しかしこの忙しなさ、どこか身に覚えがあるような気がします。
悲しかったり苦しかったりが多くなってしまうお嬢さんですが、
彼女が身につけるものに少し手を加えて、ちょっと心が華やぐ工夫をする件があります。
自分を腐らせず、凛として気持ちを弾ませようとする彼女の心意気のようなものを感じて
絵にしたいなぁと思い、私なりにデザインしました。
自身の日記を一つの短編小説という形で書き上げられたことに有明淑さんは大変感激されたそうです。
憧れの作家に、彼女の心の移ろいも秘めた矜持も伝わったことが嬉しかったのかもしれません。
一種の励ましのようなものも感じたのではないでしょうか。
そんな背景に想いを巡らせながら楽しく制作いたしました。
- 体裁:文庫本サイズ リソグラフ印刷
- 制作時期:2020年7月